市ヶ谷は普段は通過駅の一つ。こうして呑むつもりで地下鉄に乗れば、新富町から有楽町線で六駅十分程度の距離さえもどかしい。しかし、結果として訪れてみて良かったです。店の名が、
あて。路地裏にある昭和三四年に建てた一軒家をお店に仕立てています。
設立五年で五店舗をオープン。初めて訪れてみて、そのセンスの良さに驚きます。所謂、ナントカ風ではなく、BGMも余計な装飾も排した素のまんまの昭和がここにあります。もちろん、神楽坂の伊勢藤のようなマニア向けの、かつストイックさのある店ではない。
呑みものは、純米酒がメイン。徳利八本が温められる燗銅壺がカウンターから拝められ否が応でも期待が高まります。店の名にまるよう、ボリュームたっぷりの料理ではなく、あくまで酒のアテ。つぶ貝のヌタ、白いかと蕪の梅肉和え、ポテトサラダ、どれも秀逸。
一階はカウンターが六席、ちゃぶ台二卓四席(二階は不明)。従業員相手に酒選びを楽しむのであれば、間違いなく一階、しかもカウンターが絶対おすすめ。訪れたのが土曜日だったのが正解、訊けば平日はそれなりに混み、ゆっくり話をすることもままならぬと。
酒は六割が常温、四割が冷蔵。冷やしたものを燗にするとシマリが良いと、喜久酔の特純を冷やしていたのが面白かった。目の前に立つ方は、酒の特性のみならず私の知る店の多くに訪れていたり、勉強されているなあと感心しました。やはり、お店は人ですね。
麦酒の後、冷やは伯楽星と白岳仙、ぬる燗は天遊琳、酉与右衛門、木戸泉。中でも天遊琳の秋上がりは、以前高砂の山廃で感じたような絶妙なするり感が好印象、また木戸泉は千葉の酒ながら山廃特有の濃醇なボディが絶妙と、酒のセレクトもなかなかヨロシイ。
ワザワザ行く立地ながら、また来たい要素満載です。厳しかった残暑も終わり、開け放った窓から流れに秋の訪れを感じながら、ゆっくりと燗酒を楽しむ。それが叶うお店です。銀座にも系列店が出来たらしいですが、どうせ行くならコチラ。それも週末にぜひ。
木戸泉、シールに「乳酸菌醸造」とありゃ、ソソラレないわけがない!